インターネット時代に使える最新型のビジネス書
今回は、ちょっと変わった題名のビジネス書「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」をご紹介します。
この本は、米国人のブライアン・ハリガンさんとデイヴィッド・ミーアマン・スコットさんお二人の共著です。ブライアン・ハリガンさんはソフトウェア会社のCEOで大学の講師も務められています。デイヴィッド・ミーアマン・スコットさんはプロの講演家で多くの著書を残されています。
お二人とも今回の著書で話材としてとりあげているバンド「グレイトフル・デッド」のファンです。
そして、この本をアメリカで発掘され日本に持ち込み監修されたのが、あの超有名コピーライターの糸井重里さんです。
糸井重里さんはこの本に書かれているマーケティング手法をぜひ日本に紹介したい。いや自分でやってみたいと、ちょうど東日本大震災の時期に重なりながらも情熱をもってこの本を監修されています。
現代ビジネスの世界で注目されるグレイトフル・デッド
グレイトフル・デッド。日本人の大半は聞いたこともないと思います。そういう私もこの本に出合うまでは全く知りませんでした。バンド名であることも知りませんでした。
グレイトフル・デッドは、ビートルズやローリングストーンズと同じ1960年代にアメリカで生まれたロックバンドです。
バンドの中にスターがいるわけでもなくヒット曲があるわけでもないに、結成当時から今でも熱狂的なファンがいるバンドなんです。
このバンド、その当時からちょっと変わったやりかたをしていたそうで、ライブはすべて録音OK、コピーもOK、すべて無料で聴き放題。それなのに年間5000万ドルも稼いでいたそうです。ビートルズやストーンズのように知名度が高くアルバムが売れていたわけでもないのに、なぜそんなに稼ぐことができたのか?
現代のインターネット社会では、マーケティング用語として当たり前になった「フリーミアム」や「シェアリングビジネス」「ファンマーケティング」
グレイトフル・デッドは、これを当時からこのマーケティング手法を実践して稼いでいたんです。実践したというよりも、当時彼らがやっていたことがたまたま現代の最新マーケティング手法に通じていたっていう感じなのかもしれません。
今やグレイトフル・デッドのビジネスモデルはアメリカのビジネス系大学のカンファレンスで取り上げられ議論されるまでになっているようです。
この本は、1960年代当時からグレイトフル・デッドがファンのために行ってきた活動が、現代の、いやこれからの新しいマーケティングの考え方としてとらえて、その具体的な実践方法を私たちビジネスマンに伝える最新のビジネス書です。
ファンマーケティング
グレイトフル・デッドのライブは何が起こるかわからない。今日はどんな曲から始まるのだろう、どんなハプニングが起こるのだろう、どんな失敗を起こすのだろう。彼らは演奏でよく失敗していたそうです。演奏がうまくいかなくて途中でやめてしまうということもあったそうです。こんな生々しいライブが逆にファンをワクワクさせ、共感を生み、自分自身の人生そのものを感じさせていたようです。
そして、ツアーではバンドと一緒に巡業しグッズを販売することで生計を立てている人もたくさんいたそうで、その人たちもまた彼らの熱狂的なファンであり、グレートフル・デッドのメンバーとファンたちからなる「コミュニティ」として、まるで宗教のように一体化していたということです。
フリーミアムと口コミマーケティングの先駆け
今でさえ、マーケティング業界では当たり前になった「フリーミアム」基本的なサービスを無料で提供しファンを増やした後に有料コンテンツへアップグレードしてもらう。収益化ポイントをあえて遅くすることで間口を広げようとするマーケティング手法ですね。
これをグレートフル・デッドはその当時にすでに行っていたそうです。
ライブや講演会などでは録音禁止、写真撮影禁止、もし見つかったら退場、といった制限が多い中、彼らのライブではあえて録音に適した場所に特別なスペースを設けて自由に録音ができるようにしていたそうです。
そして、ファン自らが録音した手作りのテープをコピーしファン同士が交換することも許していました。こうすることで、ファン同士の強い口コミネットワークができ、ファン以外の人へもコンテンツが拡散していき結果としてファンの拡大につながります。
今でいう口コミマーケティングを当時からやっていたんです。
消費者に直接販売する
通常コンサートやライブのチケットはチケット販売会社を通じて販売するのが一般的です。私たちがよく購入するあらゆる商品もほとんど中間業者を介して購入しています。
家電であれば家電量販店、食料品であればスーパーマーケットやコンビニ、そのリテール販売店の先にはさらに中間業者が存在しています。メーカーから私たち消費者の手に渡るまでにいくつもの流通業者を経ています。
一方、グレイトフル・デッドはその当時でも当たり前になっていた流通業者を介するチケット販売方法をとらず、自前の販売事務所をつくり一般消費者へ直接販売を行っていたんです。
そして、最も良い席を最も熱心なファンに優先的に提供していました。こうすることで熱心なファンがたくさん増えてファンコミュニティのネットワークが広がっていったのです。
こうして、グレイトフル・デッドは、コンテンツを一方的に提供するアーティストとそれを受け取るファンという従来の構図とは全く異なる、アーティストとファンが一緒にライブ体験をするという形を作り、いわゆるダイレクトマーケティングを行っていたのです。
ライブ前のチューニングも共感を生むパフォーマンス
私はもともとマーケティングに興味がありこの本を手に取ったんですが、この本で初めてグレイトフル・デッドの存在を知った私は、バンド自体にはあまり興味なかったんですが、せっかくなんでどんなバンドが一度見てみようと思いYouTubeを検索し過去のライブ動画を見てみました。
この動画です。
正直私のような素人にはなかなかなじみにくい楽曲なのですが、当時流行っていたビートルズやストーンズではメジャーすぎるし好きになれない。アンダーグラウンド的な音楽にあこがれる。といった変わり者の人たちにはちょうどいい感じのアーティストなのかもしれません。
ライブが始まる前にフラフラとメンバーが入ってきて楽器をそそくさと手に取って無造作にチューニングを始める。まるで会場のスタッフが準備をしているような絵で、これなんか現代の完成度の高いライブを見ている若い世代には理解できないでしょうね。
演奏の合間にチューニングをしながらコーヒーを飲んでたばこをふかすメンバーのシーンもなんかお気楽感がありますし、全体的にパフォーマンスの完成度が低いような感じがするのも、逆にライブ会場のファンとの一体感が生まれる要素の一つなんでしょうね。
今、ライブ音源を聞きながらこのブログを書いていますが、だんだんとグレイトフルデッドのサウンドが体になじんできたような気がしてきました。この元ネタの音源自体が途中でふらつくところもレトロ感があって意外といい感じかも?と思ってきました。
ブルーオーシャンを自ら作り出す
グレイトフル・デッドは、音楽ジャンルとして確立していたジャズ、カントリー、ブルーグラス、サイケデリック、ロックというジャンルの枠を壊し、常識を無視して、これらのジャンルを融合した従来にない新しいカテゴリーの音楽ジャンルを作りました。
ライバルを観察しつつ常識とみなされているやり方を否定しライバルと差別化する。自分の業界の中でライバルとの競争が激しい土俵から抜け出し、自分が戦いやすい土俵を自ら作って勝負したんです。
今でいうレッドオーシャンを避けて、ブルーオーシャンで勝負するということです。グレイトフル・デッドは当時からブルーオーシャンを自ら作りユニークなやりかたで収益を最大化していていたんです。
当時はビートルズ、ストーンズ、ザ・フー、ボブディラン等のメジャーが多く存在した時代で、そんな巨人と同じ土俵で戦うことを避けたということもありますが、それ以上に自分たちが好きなライブを中心に自分たちのやり方で活動をしていたようです。
自分が好きなことをやり今この瞬間を楽しむ
この本の最後の章にこう書かれていました。
- 自分が本当に好きなことをやろう
- 今この瞬間を楽しもう
グレイトフル・デッドはライブではいつも大きな笑顔で演奏をしていたといいます。インタビューでは、自分たちのやっていることをいかに愛しているかを熱く語っていたそうです。自分たちがやっていることが本当に好きだったのでそれをや通した。そして結果的に成功した。
グレイトフル・デッドは、他人の夢ではなく自分自身の夢を生きることの大切さを教えてくれる。自分の人生の主導権を握っているかどうか?
人生の主導権を握って自分自身の夢を生きている人は、そう多くはありません。そういう私もそうではありません。そうなればいいなと思いますが、現実はそんなに甘くないよ。ということにしてしまう自分がいます。
大多数の人は同じような状況に甘んじて生活していると思いますが、この本の著者は最後にこう締めくくります。
もし現在の「仕事」が嫌いなら、今日からそれを変える努力をはじめよう。不平を言うのをやめて、何かを始めるのだ。
2か月がんばっても自分の「仕事」を情熱が抱けるものへと変えることが出来なかった場合には新しい「情熱」を探そう
これは仕事が嫌いだったら「転職しよう」といっているわけではなく、今の会社でも好きな仕事をやるチャンスが少しでもあればそれをするために何かを始めよう!ということです。もちろんそれが無理なのであれば転職もいいでしょう。
禅宗の開祖である達磨大師もこういっています。
すべての人が道を知っている。わずかな人だけ道を歩いている
誰しも自分の人生は自分で決められればいいな、自分の夢を生きられればいいな、と思っています。ですが、夢に向かって何かをしている人はわずかです。
達磨大師は、道の目的地にたどり着いた人がわずかだとは言っていません。道を歩いている人がわずかだと言っています。道を歩いてすらいない人がほとんどなのです。
目的地に到着した人だけが幸せなのではなく、目的地「夢」に向かって楽しむための道を歩いている人はすでに幸せだ。と言っているんだと思います。
私たちサラリーマンにとっても人生は一度きりです。グレイトフル・デッドがやってきたように、今この瞬間を楽しむために「道」を歩きましょう!
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